活動状況〔 研究会報告 〕

【第67回 研究会開催のご案内】(2015年度第4回)



【日程】2015年03月27日(日)13時50分~17時(受付:13時30~)
【場所】桜美林大学淵野辺PFCキャンパス
会場:桜美林大学淵野辺PFCキャンパス(当日掲示致します)(JR横浜線淵野辺駅・駅前)


【研究会】13:50~17:00
〔司会者〕坂本 昭雄


【開会の挨拶】 会長 岩井 清冶(桜美林大学)


【大会(報告・発表)】
第1報告 14:00~14:50
〔報告テーマ〕「日本の長寿企業から見た経営理念の実践と社会的責任活動の実態」
〔報告者〕青木 崇 (愛知淑徳大学助教)
〔討論者〕辻井 清吾(駒沢大学仏教経済研究所研究員)


第2報告15:00~15:50
〔報告テーマ〕「ツングース文化と日本文化との比較研究―婚姻習俗を中心に」
〔報告者〕王 辰(作新学院大学経営学研究科博士後期課程)
〔討論者〕韓 暁宏 (山梨英和大学准教授)


第3報告 16:00~16:50
〔報告テーマ〕「未成年者がサッカーボールを蹴って他人に損害を与えた場合に、その親権者に対する民法714条1項の責任を認めなかった事例―最判平成27年4月9日民集69巻3号455頁―」
〔報告者〕勅使河原 由紀(明海大学非常勤講師)
〔討論者〕山田 朋生(日本大学助教)


【閉会の挨拶】 副会長 辻井 清吾(駒澤大学)



【報告要旨】(2015年03月27日(日))

【1日目】

【第1報告要旨】〔報告者〕青木崇氏(愛知淑徳大学)
第1報告テーマ 「日本の長寿企業から見た経営理念の実践と社会的責任活動の実態」 (報告要旨)
日本企業の中には創業して100年以上の長寿企業といわれる企業が数多く存在している。帝国データバンク史料館(2008)によれば、1912年までに創業した企業(宗教法人や社団、財団その他の公益法人等を除いて)は24234社に上っている。24234社の業種別をみてみると小売業(7021社、構成比29.0%)が最も多く、製造業(6181社、同25.5%)、卸売業(6034社、同24.9%)の順となっており、全体の79.4%を占めている。業種分類では清酒製造(784社)、旅館(646社)、菓子製造販売(514社)が上位を占め、老舗といわれる企業が名を連ねている。
長寿企業の多くが創業以来の経営理念(企業理念)を掲げ、共通の価値観あるいは経営方針として、これまで経営を行ってきた。すべての長寿企業が経営理念を明文化しているわけではないが、口伝を含めて長寿企業に共通して見られるのは良質廉価、身の丈にあった経営を行ってきていることである。そのような経営には創業者の経営理念、経営哲学といった教え、教訓、家訓が経営指針となり、価値観の醸成、精神面での支柱となったからこそ今日まで存在しているのである。
マイケル・ポーター(Porter, Michael E.)とマーク・クラマー(Kramer, Mark R.)はHarvard Business Review(2006年12月号)で社会的課題に対し、自社の事業を通じて企業価値を向上させるCSRの手法として、CSV(Creating Shared Value:共通価値創造)を提唱した。その後、マイケル・ポーターとマーク・クラマーはHarvard Business Review(2011年1月・2月合併号)でCSVのコンセプトについて論述している。だが、彼らの概念よりも以前に近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)にみられるように社会の整合性に合わせた経営を実践し、その経営には経営哲学があったことを指摘しておきたい。100年、200年以上といった長寿企業は日本が世界で一番多く、その特徴から学習すべきことがある。
本報告では持続可能な発展を目指す企業の根底をなす経営者の理念と社会的責任活動の関係について考察する。具体的には経営理念を従業員と共有し、社会的責任活動として経営実践していくための位置づけ、その特徴を明らかにしたい。


【第2報告要旨】〔報告者〕王辰氏(作新学院大学経営学研究科博士後期課程)
第2報告テーマ「ツングース文化と日本文化との比較研究―婚姻習俗を中心に」 (報告要旨)
日本に流入し、日本文化の基層を成しているさまざまな文化のうち、ツングース系民族の文化要素がその一つであることは、先行研究ですでに指摘されている。中国にはツングース系民族として満族、シボ族、ホジェン族、エベンキ族、オロチョン族など5つの民族がある。満族はツングース系民族の中で最も古い民族の一つである。江守五夫は、日本に伝えられたツングース系の文化要素の多くは満族にもみられるものであるとしている。
本研究の目的は、先行研究をもとに、日本では主に民話、史料、習俗の資料などにより、ツングースについては主に満族に関する資料や現地調査などによって、婚姻習俗を中心に考察する。この比較を通して、ツングース文化と日本文化との共通性を抽出してまとめてみたい。
したがって、本論は、以下で説明する三つの部分から構成されている。
第一部分では、まず、ツングースという概念を明確に定義し、ツングース系民族の分布地域からその民族特性を分析する。
第二部分では、まず、五つの種族文化複合がメラネシア、中国南部、江南、朝鮮半島などいくつかのルートを経て日本に流入し、日本の基層文化を形成したと考えていた日本の岡正雄学説を紹介する。次に、いくつかのツングース系文化要素の渡来を想定し、婚姻習俗で見た日本文化とツングース文化との関連性についての研究を行った大林太良学説を紹介する。
第三部分では、婚姻習俗を中心に、江守五夫の研究をはじめ、日中両国の多くの先行研究をサーベイする上、ツングース文化と日本文化の比較研究を行い、その共通性を明らかにしたい。
もちろん、本研究は、ツングース文化と日本文化の中にある共通の婚姻習俗の表し方やその習俗の日本での分布などを明らかにしたものの、婚姻習俗の流入ルートやその日本での定着過程、さらにこれらを通じて見られる両文化間相互影響のメカニズムなどに関しては、まだ解明していない部分が多く残されている。引き続き今後の研究課題としたい。


【第3報告要旨】〔報告者〕勅使河原由紀(明海大学不動産学部非常勤講師)
第3報告テーマ 「未成年者がサッカーボールを蹴って他人に損害を与えた場合に、その親権者に対する民法714条1項の責任を認めなかった事例―最判平成27年4月9日民集69巻3号455頁―」 (報告要旨)
1.事故の概要
平成16(2004)年2月25日、愛媛県所在の小学校に通学していた11歳の男子児童は、フリーキックの練習中、サッカーボールをゴールに向かって蹴ったところ、ボールがゴール後方の門を超えて道路上に転がり出てしまった。ちょうど、その時、85歳の高齢男性が自動二輪車を運転して上記道路を走行しており、転がり出てきたボールを避けようとしたところ、転倒して負傷し、その約1年5か月後に誤嚥性肺炎により死亡した。
2.判旨 責任を弁識する能力のない未成年者の蹴ったサッカーボールが校庭から道路に転がり出て,これを避けようとした自動二輪車の運転者が転倒して負傷し,その後死亡した場合において,次の(a)~(c)など判示の事情の下では,当該未成年者の親権者は,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。 (a)上記未成年者は,放課後,児童らのために開放されていた小学校の校庭において,使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり,殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情はうかがわれない。 (b)上記サッカーゴールに向けてボールを蹴ったとしても,ボールが道路上に出ることが常態であったものとは認められない。 (c)上記未成年者の親権者である両親は,危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしており,上記未成年者の本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。
3.問題の所在
この最高裁判決について、巷では「同様のケースでは親がほぼ例外なく賠償責任を負ってきたが、こうした流れが変わりそうだ(日経2015年4月10日付朝刊)」等、これまで広く認められてきた親の監督義務者としての責任範囲が限定されたという評価がなされている。しかし、果たして、そのような評価は妥当なものであろうか。
というのも、本件事故の内容を吟味すると、本件は、未成年者である男子児童が他人に危害を与えるような行為ではないことをして、たまたま運悪く、結果として高齢男性が負傷したという事例であり、そもそも高齢男性が負傷したことにつき、男子児童に過失はなかったようにも見える。そうであれば、未成年者に過失があることを前提とする監督義務者の責任は、監督義務の懈怠如何を問わず、否定されてしかるべきであろう。
そこで、本報告では、まず本判決の位置づけを明確にした上で、誰が責任を負うべきであったのかにつき検討したい。
4.本判決の位置づけ
前述の通り、男子児童に過失があるとは認められない。従って、そもそも監督義務者の責任は問題とならない。
5.責任の所在
本判決では、上記サッカーゴールに向けてボールを蹴るという行為は、そのボールが本件道路に転がり出る可能性があり、本件道路を通行する第三者との関係では危険を有する行為であったと述べている。とすれば、そのような危険な場所にサッカーゴールを設置した学校の責任についても検討すべきではなかったか(高齢男性の相続人は、学校の責任を追及していない)。