活動状況〔 研究会報告 〕

【第65回 研究会開催のご案内】(2015年度第2回)


【日程】2015年8月25日~26日
【場所】神戸学院大学ポートアイランドキャンパス(〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3)


【1日目】 8月25日(火)13:30-17:00 〔D号館202教室〕
総合司会者 副会長 辻井 清吾(駒澤大学)

13:30~13:40
【開会の辞】  理事 井上 善博 (開催校・神戸学院大学)
【会長挨拶】  会長 岩井 清冶(桜美林大学)

【大会(報告・発表)】
第1報告 13:40-14:40
報告テーマ 「ペストの風土と台風の風土からみた大学改革日独比較―少子化社会における大学の使命と対応―」
報告者 岩井 清冶氏(桜美林大学)
討論者 董 光哲氏(江戸川大学)

第2報告 14:50-15:50
報告テーマ 「マーケティングビジネスにおける実証研究―キャンペーンの各種分析―」
報告者 大熊 省三氏(関西学院大学)
討論者 辻井 清吾氏(駒澤大学)

第3報告 16:00-17:00
報告テーマ 「景品表示法コンプライアンス・プログラム創設の必要性についての一考察― 法令遵守及び企業倫理を中心として-」
報告者 山田 朋生氏(日本大学)
討論者 韓  暁宏氏(山梨英和大学)

【懇親会】17時30~19時30 〔A号館1階「クルーズ・カフェ」(大学内カフェテリア)〕

【2日目】 8月26日(水) 10:00-12:10 〔D号館202教室〕
総合司会者 副会長 辻井 清吾(駒澤大学)

【大会(報告・発表)】
第1報告 10:00-11:00
報告テーマ 「日雇い労働者の現状と課題」
報告者 永井 攻冶氏(明海大学)
討論者 岩井 清冶氏(桜美林大学)

第2報告 11:10-12:10
報告テーマ 「製造業における革新的マネジメント」
報告者 奈良 松範氏(諏訪東京理科大学)
討論者 平田 光弘氏(中央学院大学)

【閉会の辞】副会長 辻井 清吾(駒澤大学)



【報告要旨】(2015年8月25日~26日)

【1日目】

【第1報告要旨】〔報告者〕岩井 清冶氏(桜美林大学)
第1報告テーマ 「ペストの風土と台風の風土からみた大学改革日独比較―少子化社会における大学の使命と対応―」 (報告要旨)
高齢化社会が高学歴社会となり、高等教育。大学進学率が上昇、それにともなう大学教育受講人口の増加、大学のエリート大学段階からマス大学化、ユニバーサル・アクセス大学への変化が特に経済先進国に招来するという過去の指摘は、歴史の現実として認められてきている。しかしこうした中、各国は必ずしも同じ対応策を見せたわけではない。特に、日本とドイツの対応はかなり対照的な特徴を示している。両者の大学教育への考え方、社会的あり方の違いを、あえてそれぞれの社会風土的背景を踏まえてその特徴を明らかにし、合わせてそれぞれの方向性を探りたい。
1.ペストの風土と台風の風土の歴史的社会形成
地球規模における気候・気象環境への太陽活動の影響の重さが指摘されて、現在の課題である地球温暖化への見直しが求められる中、同じ太陽の影響がヨーロッパ特に北西ヨーロッパ、イギリス・ドイツ。北フランス等とアジアなどとではかなり異なっており、歴史 的災害の典型をペストと台風として比較したものが「ペストの風土と台風の風土」である。同じ太陽活動の変動が食糧生産の大小や疫病の蔓延、自然災害の種類の違い等をもたらしたとする歴史比較研究である。この風土の違いは当然そこに生存する人類社会の性質にも影響する。現在大きな課題である高学歴化への大学の対応にもその特徴が示されているのである。
2.高学歴化社会に対応する日・独大学の受け入れ体制
1960年代から70年代にかけての日・独社会における大学組織改革は、日本においては従来の大学制度を基本的に受け継いだ大学設置数の増加によって、上昇する大学進学率、大学学生人口の増加に対応した。新設された大学は駅弁大学等の表現を生みながら基本的に従来の旧制大学、旧制国立大学と同等の大学制度として設置された。その一方、 ドイツの大学においては、従来の伝統大学(Universitaet・Hochschule)とは制度的に異なる専門大学(FachhOchshule)を設置する事で、上昇する高等教育進学率を吸収したところに特徴が存在する。特に専門大学の設置は1970年代に急激に設置数を増加させた一方、従来の伝統大学に属する大学はほとんど増設しなかった点が対照的である。
3.ドイツにおける専門大学の教育内容の特徴
ドイツにおける新設専門大学と従来の伝統的大学との違いは、従来の伝統大学の修了年限が4学年。8学期制を基本とする一方、専門大学は基本的に3年・6学期制であること、また博士学位授与権限資格を有するかどうか、さらに卒業資格の差異、たとえば国家教育試験資格も、ギムナジウム教員資格授与、それ以外の教員資格授与等、さらに教育内容での大きな特徴の差、たとえば理論講義授業の比率、実習授業の比率、古典語授業の重視、大衆化に対応した大学制度として設置されていることは明らかである。さらに、両者の教員資格も、担当授業数とその内容、研究重視か教育重視か等でその対応が分かれていると理解する事ができる。そのほか専門大学以外の従来の大学一般においても、実習教育重視の姿勢は、たとえば「ベルーフスアカデミー制度」「デユアル大学制度」等々、大学大衆化への対応として導入がはかられてきている。
4.ドイツにおける大学改革日独比較の意味―まとめに代えて一
わが国の対応では、大学の体制自体は同等、しかし社会的評価は実質的に社会に委ねるという方式で、制度は変えずに社会的評価により質的な内容を問うものと理解できる。この方式は、たとえば行政が積極的に都市建築物を規制して低さ制限等を行なうドイツ等とは対象的に、建物建築規制等極力行政が介入しないまま、市場経済原理によって低さ制限が自然に実現されるというわが国の「和の重視、対立をさける」方式の一環である。基本的に行政が都市市民に対立しない、規制しない方式であるわが国の一方、 ドイツでは積極的に介入して伝統大学と専門大学との区別等、授業内容などでも大学進学率増加に対応した介入がなされるのである。わが国では実習授業を重視せざるをえないように、つまり大学内部において自主的に対応させようとする方式であり、あえて行政は介入しない一方、大学の社会的評価以外にも学生本ノ、の能力発揮の可能性も十分のこしてある制度といえる。ただし、職業についての受けとめ方では、職業資格、職業経験、職種教育の重要性等々、大学進学以外の選択可能性の潤沢さは、ドイツでは日本の比ではないといえる。そこには、それらがペストの風土に加えた陸続き社会の風土での異質社会に受け入れてもらうためのパスポート的役害J、つまり職種能力がグローバル機能を有していたと認められるのである。わが国のグローバル化、国際交流の一般化にさいして、高学歴化。大衆化した大学の総体的な受け入れ体制だけでは到底対応できない段階にきていると思われる。伝統大学的理論講義授業の改革つまり削減、議論のHl練を踏まえた口頭報告を伴う演習形式。少人数授業の導入拡大等々、さらには海外実習を含む異文化圏留学等々、かつての「大学は教養教育、職業教育は企業が担当」という独自の方法が変質している時代、大学が積極的に導入すベき課題は極めて多いといわなければならない。
5.主要参考文献
G.フーケー他(小沼明生訳)『災害と復興の中世史』人坂書店、2015年4月
桜井邦朋『日本列島SOS』ガヽ学館新書、2015年6月
桜井邦朋『太陽の謎』ダイヤモンド社、 1982年
Wアーベル(寺尾誠訳)『農業恐慌と景気循環』未来社、 1972年
岩井清治『ペストの風土と台風の風土』学文社、 1996年、 他


【第2報告要旨】〔報告者〕山田 朋生氏(日本大学)
第2報告テーマ「景品表示法コンプライアンス・プログラム創設の必要性についての一考察― 法令遵守及び企業倫理を中心として-」
本研究は、「景品表示法コンプライアンス・プログラム創設の必要性」を究明し、その創設に至る手引きを示す研究を行う事が目的である。
近年において、事業者である企業の法令遵守意識の低迷をうけて、公正取引委員会が独占禁止法コンプライアンス・プログラムに取り組み始めた。もともと、景品表示法も以前は公正取引委員会の管轄であったが、ここ最近で消費者庁に移管されたことに伴い、その移管整備及び取り組みが遅れていると考察する。その為、経済法全体において、コンプライアンス・プログラムの取り組みは近いうちに行われると予想される。過日(2014年10月24日)、景品表示法の改正法案(第187回国会(臨時会)提出法案)が閣議決定されたことからも、今後における景品表示法に関する取り組みの重要性が理解され得る。
ここ最近、企業内における社員の法令遵守(コンプライアンス)指導及び教育の必要性が重要視されてきている。過日、当学会報告において独占禁止法コンプライアンス・プログラムの必要性について掲げたように、市場を介して営利を目的として経済活動をする企業にとっては、社会法に分類される経済法、特にその中でも独占禁止法(以下、「独禁法」と略記。)におけるコンプライアンスの周知徹底指導(教育)が企業の社会的な命運を分けるまでの存在となっている。今回は、経済法の中でも独禁法に続いて今後ますます重要になってくるであろう、景品表示法コンプライアンス・プログラム(案)の創設の必要性について考察するものである。
戦後において社会法分野の法律が整備されるに伴い、市場で経済活動を行っている企業に対して規制(取り締まり)をする役割を経済法は担っている。経済法の中でも、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、「独占禁止法」と略記。)(公正取引委員会の管轄)や景品表示法(消費者庁の管轄)は取り分け重要な役割を市場において果たしている。
通常、市場の中で事業活動を行っている企業の最終目的は営利を目的として活動を行っているために、度々法律違反をすることがある。独占禁止法の場合には、公正取引委員会が「私的独占」、「不当な取引制限」、「不公正な取引方法」に事業者である企業が違反しないようにガイドラインを掲げて監視をしている。それにもかかわらず、市場内で活動をしている企業の独占禁止法違反行為が未だに行われている現状を考慮して、近年では公正取引委員会が企業に対して「独占禁止法コンプライアンス・プログラム」という企業内における法令遵守向上のための重要な施策に取り組んでいる。
しかし一方では、同じ経済法の中でも景品表示法の場合には、この取り組みが未だ行われてはいない。景品表示法の場合には、消費者庁が「不当な景品類」、「不当な表示」を事業者である企業が提供して違反をしないかガイドラインを掲げて監視をしている。それでもなお、食品偽装などの違反行為が度々行われている現状である。
今後の企業における景品表示法コンプライアンスの取り組みとしては、①コンプライアンス(法令遵守)及び企業倫理の徹底化、②課徴金減免制度(案)の活用の2つが考えられる。まず、①コンプライアンスとは、「法律や規則などのルールに従って活動を行うこと」を意味する。近年において企業では極めて重要視されてきている言葉である。企業内で働いている社員は、自分でも判らないうちに法律違反をしてしまっている可能性がある。それゆえ、企業によっては、企業内内にコンプライアンスに関する部門を置いて当該対策(法令遵守)及び社員教育(企業倫理)に力を入れている。次に②課徴金減額制度(案)とは、企業(事業者)が自ら関与した入札談合やカルテルを公取委に報告し、法定要件に該当した場合には、課徴金が減額される制度のことである。もともと、景品表示法も以前は公正取引委員会の管轄であったが、ここ最近で消費者庁に移管されたことに伴い、その移管整備及び取り組みが遅れていると考察する。消費者庁の管轄する景品表示法においても近いうちに必ず企業における法令遵守に関する取り組みが重要視され行われることが予想される。
その対策の先駆けとして、前述したように過日(2014年10月24日)、景品表示法の改正法案(第187回国会(臨時会)提出法案)が閣議決定されたことからも、今後における景品表示法に関する取り組みの重要性が理解され得る。その為、経済法全体において、コンプライアンス・プログラムの取り組みは近いうちに行われると予想される。そのため、近い将来において「景品表示法コンプライアンス・プログラム」の創設が必要であると考える。


【第3報告要旨】〔報告者〕大熊 省三氏(関西学院大学)
第1報告テーマ 「マーケティングビジネスにおける実証研究―キャンペーンの各種分析―」 (報告要旨)
プロモーション戦略には、イメージ戦略、ブランド戦略、マーケティング戦略等、多種多様な取り組みがあるが、その中でビジネスの視点としてのアプローチを考えた場合、ニッチな領域の一つに「消費者キャンペーン」がある。
企業の宣伝部、マーケティング部、広告代理店のプランナー、デザイナー、制作会社等の担当者が、消費者キャンペーンを企画、展開する上で、必要となるのが、タイムリーな情報とデータである。そんなニーズをビジネスとして展開したのが「キャンペーンレポート」(マーケティングの専門誌)である。
キャンペーンレポートは、全国で実施されている最新のキャンペーン広告および、店頭POP、ポスター、リーフレット、応募はがき、流通パンフレット等、SPツールすべてを紹介すると共に、レスポンス調査、企画者へのインタビュー、消費者動向分析調査、販売売り上げ結果等、その総合的・多角的内容・情報量により、既存では無い構成となっている。
ビジネス事例として報告すると共に、ペルソナマーケティング、イノベーター理論、5Forces分析、SWOT分析、PPM分析を行い、マーケティング理論的に、このビジネスの成功要因を考察する。特に、PPM分析の解釈(ビジネスは問題児から参入する。)について、キャンペーンレポートのビジネス事例をとおして新たな考察を行う。
また、報告時間が許せば、各国の消費者キャンペーンのあり方について、アメリカのクーポン、コーズ・リレイテッド・マーケティング等、を事例を交えて紹介する。


【2日目】

【第1報告要旨】〔報告者〕永井 攻冶氏(明海大学)
第1報告テーマ 「日雇い労働者の現状と課題(昭和期における都市労働者の研究)」 (報告要旨)
現在、日雇い労働者は減少傾向にあると言われている。また、日雇い労働者が比較的多いとされる東京山谷地区や大阪釜ヶ崎地区等は労働者の高齢化問題も深刻化している。その一方で、若者の非正規労働者の就労問題はますます深刻化している。つまり、日雇い労働者を含む非正規労働者の就労形態は時代と共に変容し、今日の法律では馴染みにくく、制度の変換期に差し掛かっていると言っても過言ではない。そのため、非正規労働者を含む新たな日雇い労働者を保護する政策が求められるべきであると考える。
このような現状を踏まえ、本報告では日雇い労働者の歴史的背景と現状の問題点を考察し、法律改正の必要性を模索した。また、東京山谷地区の背景と、現在の簡易宿泊所等の現状についても説明する。


【第2報告要旨】〔報告者〕奈良 松範氏(諏訪東京理科大学)
第1報告テーマ 「環境マネジメントシステムにおけるメンタリティの研究(経営における革新的マネジメントの研究)」 (報告要旨)
経済学や経営学の分野における理論の多くは、欧米で開発されたものであり、西洋型の思考パターンあるいは文化に基づいているといえよう。しかし、これまでの西洋型の経済理論が地球環境問題に与えた影響について考えた場合、今後、この理論にも何らかの修正が必要であろうと思われる。ところで、日本食が世界遺産に登録されたことは記憶に新しい。外国人からみると、料理だけでなく、日本の文化全体にきわめて高い関心を寄せていることがわかる。日本食はわが国の文化の一部でもある。このような観点から、日本的な”もの”が環境配慮型の新しい経済システムの構築に役立つのではないかと考えた。
本研究では、日本の風土性あるいは日本人のメンタリティが現れていると思われる事象をいくつか検討し、その基本的なメカニズムを検討した。因みに、和辻哲郎の書いた著作である「風土」には「人間学的考察」という副題がついており、風土性は人間が作り出すものである。わが国の風土性に基づく日本人の判断基準を日本的マインドセット(JMS)と呼ぶとすれば、JMSが経済や社会活動に影響を与えることは容易に予想される。本研究では、JMSが日本の文化に与える影響を定量的に評価するための手法を開発することを目的とした。
わかりやすい事例として、生産現場における環境保全活動及び震災などの自然災害発生時の人間の行動を取り上げ、これらに関する分析を行った。生産現場における活動は、ライフサイクルマテリアルフローコスト分析(LC-MFCA)を用いることにより、JMSによる影響評価を行った。災害に関する分析は、公表されている阪神・淡路地震、中越地震、及び東日本地震における住民の避難行動データを用いてJMSに係る分析を行った。
その結果、製造業などの生産現場で利用することができると思われる環境マネジメントのための重要なスキームを明らかにすることができた。また同時に、生産現場とは全く関係がないと思われる災害発生時のシーンにおいても同様のJMSが駆動していることを指摘できた。このようなアナロジーからJMS手法は災害発生時の被害低減にも役立てることができるとした。